人類大系序説

「人が自己自身でないならば、それはまさしく絶望である。」

セーレン・キルケゴール

人間は一つの記憶である。それは大いなる天体として巡り完結がなく無限であり、しかも全体として関連している。たった一人の人間は存在せず、自己とは対象ではなく範囲である。現在は永遠にひとしく、時間はどこにも流れていない。過去と未来はまぼろしであり、扉は永遠に開かれたままである。
人間は一つの途上である。その道の上で人類が方向を見失い渇き死のうとしている。光は届かず競争し合い、ひとびとは欲望の炎に燃える。能力はさび付き、幸福を求めるほど鎖は強くしばりつける。この迷妄から人間は何世にもわたって抜け出せていない。今している失敗は過去にも同じようにした失敗である。
人間は一つの復活である。それは人間というものへの復活である。かつて私たちは宇宙の星だった。天上にまたたく光の行進だった。しかし自己に囚われ、全体の連帯をうしなったひとびとが、次から次へと永遠の頂から落ちてゆく。
人間は一つの心である。心は無限であり、生まれもせず死にもしない。現世はいずれの瞬間にも存在せず、今ある世界は過去に見たことのある記憶である。自己とは自分を含めての誰かであり、彼らは今も生き続けている。
復活とは思い出すことである。そのほんらいの意味を私たちは知っている。宇宙が眠りにつく前に私たちは存在した。そこでは何かが一度終わっている。ところでこの夢は何者かにとっての夢である。
それは誰か、私たち自身である。